研究課題
本研究は複合核を用いたCP対称性の破れの探索実験のために中性子偏極デバイス:3Heスピンフィルタを開発することを目的とするものである。このために性能の良い、70atmcm程度の大型3Heスピンフィルタおよびレーザーシステムを構築する。昨年度に引き続きレーザーシステムの設計、開発を行っており、J-PARC MLFで使用できる新たなレーザーシステムの構築を進めている。また、3Heスピンフィルタの試作機を複数個作製し、既存のレーザーシステムを使用した性能評価を行った。この結果、体積が小さな3Heスピンフィルタは7割程度の歩留まりで緩和時間が150時間以上の高い性能を達成できることを確認した。これに並行して昨年度に作製した27atmcmの大型3Heスピンフィルタの試作機を用いて、CP対称性の破れの探索実験の基礎研究を目的とする偏極中性子実験を行った。本装置をJ-PARC MLFの中性子実験装置BL10, BL04に導入し、1eV程度の高いエネルギーの中性子を40%程度の偏極率で偏極することに成功した。この偏極中性子ビームを139La原子核ターゲットに照射し、140Laのp波共鳴から放出されたγ線の偏光測定を初めて行った。現在データ解析が進行中である。これらの近年の実績から、中性子ビームラインで安定的に3Heスピンフィルタが運用できることが確認されつつあるため、3Heスピンフィルタと核偏極ターゲットを組み合わせた、より本番のCP対称性の破れの探索実験に近いセットアップでの実験の検討を進めている。
2: おおむね順調に進展している
3Heスピンフィルタ作製方法に関するノウハウは概ね蓄積され、安定的に性能の良い3Heスピンフィルタの作製に成功している。当初予定していた大型3Heスピンフィルタの作製はまだ行っていないが、本年度は主に、作製した3Heスピンフィルタを実際に使用した物理実験を推進しており、安定的に3Heスピンフィルタを運用することができている。レーザー装置の開発も進行しており、概ね順調に計画が進行していると言える。
レーザー装置の開発と大型3Heスピンフィルタの作製を完了させ、その性能評価を行う。十分に高い性能が出た場合には本装置を使用した偏極中性子実験を行う。
3Heスピンフィルタが高い性能で運用できることが確認されたため、本年度は主に3Heスピンフィルタを用いた物理実験を中心に研究を推進したことで、開発に使用する予定だった予算に余剰が生じた。残額は次年度に本番器を作製するために使用する。
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すべて 雑誌論文 (2件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
波紋
巻: 32 ページ: 76-81
Physical Review C
巻: 104 ページ: 014601
10.1103/PhysRevC.104.014601